音楽家 内橋和久さん

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好きなことをずっと続けている、
音楽家の内橋さん

続けてきたら「今」になった。

好きなことを続けることと、
好きなことで、お金を稼ぐこと。

それは、一緒に考えてもいいし、
別々に考えてもいい気もしました。

自分の好きなことを、続けること。

人それぞれ、
いろいろな人生を生きてきて、
その人生の分だけ、
いろいろな感じ方がある気がします。

内橋さんのお話を聞いて、
そのままでいいんだ、って思いました。

みんな、違って、みんな、いい。

自分の好きなことってなんだろう?

第三回、最終回は、
自分の、人生を生きる、みたいなお話です。

(好きなことを見つけられると、人生がちょっと、楽しく、彩られる気がします。)
第三回
それぞれが独立して"いいもの"をつくっているか?

今村 音楽を、やめようかなって思ったことはありますか?

内橋 なかった。

今村 それがすごいなって思います。

   好きなことを始めるときって、
   最初はみんな、好きな気持ちが大きいと思うんです。

   でもやっていく中で、嫌いになりそうになったり、
   ストップしたり、色々な事情でやめていく人もいますよね。
    
内橋 僕はなにもやらされてることがないから。

   自分でやってるだけだから。
   きっとやり方が間違ってるんじゃないかな。

今村 たしかに、自分でやってるっていうのは、
   強いかもしれませんね。
   
   自分でジャッジしてるってことですもんね。   

内橋 そう。

   たとえば、メジャーの人は、契約とかもあるでしょ。
   何年に、何枚、出さなきゃいけないとか。何があっても。
   それが契約だから。

   つくりたいものがない時でも、
   つくり出さなきゃいけないのは、大変だよ。
   
   もちろん、それで『いいもの』がうまれる時もある。
   でも、やっぱり大変だと思う。しんどい。

   なんでも、自分のやりたいことを続けられるか?ってことは、
   "その人次第"だと思う。

   それは上手いから続けられるわけではないし、
   下手だから続けられないわけでもない。

   下手でも、すごい好きで楽しかったら、続けちゃうでしょ。

   そこにしか、自分の何かを持っていけない人だったら、
   続けるだろうし。

今村 はい。

   続けることって大変だけど、大切ですよね。
   続けることでみえてくるものもあるのかなって思います。

内橋 うん。
   上手で才能ある人はいっぱいいたけど、みんな辞めちゃった。
   大学卒業して就職するって、すぱっと。
   
   もったいないなって思ったよ。
   僕があんなに上手に弾けたら、絶対やめないのに。

   でも、そういうことじゃないんだよ。

   音楽をやるってことも、
   音楽して生活していくことが、いいことでもないと僕は思う。
  
   好きだったら、ずっとやればいいし、
   働きながら、音楽好きでずっとやってる人もいる。
   それはそれで、素晴らしいことだと思うよ。

   僕は今、音楽で生計を立ててるけど、
   それはもう本当にラッキーだとしか言えない。
   
   だって、好きなことやってきて、食えてるんだから。
   こんな、しあわせなことはないなって思う。

   でも、基本は食べることとは別のところにあるから。
   続ける、続けないっていうのは。

   仕事がないから音楽を辞めちゃったっていう人は、
   "音楽を仕事にしたかった人"。

   "音楽をやることが目的"なわけじゃなくて、
   "音楽で食べることが目的"、そもそもが違う。
   
   でも世間的には、音楽で食べていけなかったら、
   成功してないって思われちゃう状況だからね。

   その狭間で、みんな悩んだりするんだよね、きっと。

   「いつまでも仕事もなしにそんなこと続けて!」
   って言われちゃったりね。
   
   僕だって、ずっと親父に言われ続けてきたからね。

今村 内橋さんでも言われたんですか?

内橋 言われたよ!笑

   大学卒業後の、就職する、しないのタイミングで。
   「なんで就職しないの?」って。

   まぁ、親としてはきっと、心配してたんだよね。
   
   でも僕は、考えて、自分で選択したんだから。
   30くらいまで言われてたかな。それからは言わない。

今村 ライブに来てくれたりします?

内橋 うん。ちょこちょこ来てるよ。

今村 いいですね。

内橋 でも、最期の方だよ。亡くなる前。
   親父は若くて63、64歳で亡くなったから。
   僕が30代後半のころかな。

今村 亡くなってしまうの早かったんですね。

   男の人にとって・・
   お父さんって大きくないですか?いろいろな意味で。

内橋 僕にとっては、
   はっきり言ってあんまり大きくなかったな。
   
   反面教師な感じがあって。

今村 そういう意味でも、大きくないですか?

内橋 うーん、うちの親父はね、普通のサラリーマンだった。
   
   サラリーマンとして、どこまで上にいけるのか?
   っていう社会で働いてて。そこで、ずっとやってきた人。

   僕が興味のない世界で、そこで悩んで悩んで、苦しんだ。
   それでストレスが溜まって、病気になって。
   
   あれを見て、僕は親父みたいになりたくないなって。

今村 お父さん、何が好きだったんでしょうね?

内橋 何が好きだったんだろう。

今村 野球とか?

内橋 うん、野球は好きだった。
   一緒に観に行ったりしてた。西宮球場とか。
   
   僕の名前、和久って"稲尾和久"からつけられたから。
   すごいピッチャーだったんだよ。

今村 スター選手から名付けられたんですね!
   いい名前じゃないですか。
   
   昔は映画スターから名付けられたり、よく聞きますよね。

内橋 今でもそうでしょ。笑

今村 失礼しました。笑
   
内橋 笑 和久って同じ名前のやつをみつけると、
   「お前の親父、稲尾のファンだろ?」って聞くと絶対そうだった。

今村 そうなんですね。
   
   平和の"和"に永久の"久"、いい名前だと思います。
   お母さんは、どんな感じの方ですか?

内橋 お袋は、ほわんとしてたかな。明るい。

今村 内橋さんはお母さんに似てるんですかね。
   別に、ほわんとしてるってわけじゃないですよ。笑

内橋 笑 はい。

今村 明るいというか、なんでも受け入れる感じがして。
   大丈夫でしょ、って。

内橋 うん。ポジティブかもね。

今村 はい。そうです!
   明るいってけっこう大事じゃないですか。
   
   特に、家の中でお母さんが明るいことって。

内橋 うん。2人ともポジティブだったかな。
   親父は疲れて帰ってきてたけどね。

今村 お母さんはライブに来られますか?

内橋 お袋は、よく来るよ。
   最近は年もあるから頻繁ではないけど。昔からよくね。

今村 自分がサラリーマンになるっていうことは、
   違うなって思うけれど、
   
   「お父さんがやってたことを分かるな」、
   っていう気持ちはあります?

内橋 うん。
   サラリーマンにもいろいろな人がいて、
   楽しんでる人もいる。それは、いいことだと思う。
   
   でも、うちの親父はそうじゃなかったと思う。
   
   会社をなんとかして、大きくしたいとか、
   自分がどれだけ貢献できるか、それが全てだったんだと思う。

   そのために、一生懸命、一生懸命働いてたから。

今村 情熱がありますよね?

内橋 うん、情熱はすごいあった。
   
   やってみたいことをトライしたり、がんばってた。
   繊維関係の仕事でしょっちゅうアフリカに行ってた。
   アフリカに行って生地を卸してた。

今村 その時代に、アフリカで商売って・・すごいですよね?

内橋 うん。しょちゅうアフリカに出張に行ってたよ。
   ケニアとか。麻を作ってた。

今村 すごい!お父さん、すごいじゃないですか。

内橋 うん。そういう意味では頑張り屋だったのかな。

今村 頑張り屋さんですよ!
 
   日本のちょっと前の時代って、企業戦士というか、
   とにかく働くって時代があったじゃないですか。

内橋 うん。それが良いとされていた時代だね。

今村 はい。
  
   お父さんは、必死に闘っていたんじゃないですかね。
   
   歳を重ねたり、上にいくほど、
   色々なしがらみや派閥、ポジション争いもあったり。
   大変だったと思います。
  
内橋 うん。
   そこに目標をおくのが、あんまりよくない気がするんだよね。
   
   一生懸命働いて、そこのポジションにいけないって分かった時に
   すごくショックで立ち直れなくなっちゃったりする人もいる。

   目標ってなんなんだろうね?達成させて終わるもの?
   
今村 分かります。

   ただ、一方で、目標を立てることで、
   がんばるひとつの方向性をつくれるのかなって思ったりもします。
   
   たとえ、その目標にたどり着けなくても、
   その過程で得られるものや同じ方向を向いている人と出逢えたり。
   逆もありますが。苦笑
   
   悩んだり、ピンチの時、
   わたしは同じ思いをもった人に助けられたりするので。

   でも、その"人"と出逢えないと・・かなり苦しいと思います。

   内橋さんは、がんばらなきゃいけない時は、
   どうやってモチベーションを上げるんですか?

内橋 学校のテストの時は一夜漬け。
   
今村 さかのぼりますね!笑

内橋 はい。笑
   詰め込んでがんばって、テスト終わったら全部忘れる。

今村 分かります。わたしも一緒です。笑

内橋 けっこう良い点とってたよ。

今村 内橋さん、優秀だったんですね。

内橋 高校はダメだったけどね。
   だいたい遅刻して、3時間目くらいからかな。

今村 え!お母さんは、なにも言わないんですか?

内橋 言わなかったね。笑

今村 お母さん、すごいですね。

内橋 自転車乗って、サンダル履いて行ってた。

今村 え!爆笑 おばさんじゃないですか!
   服装検査で怒られますよね?

内橋 服装検査とか関係ないし、
   色つきのシャツとか着てたから。

今村 !色つきのシャツって。笑
   なんか、アイドルみたいですね。

   高校は、卒業できたんですか?

内橋 しましたよ!笑
   進学校でしたから、一応。
   遅刻、早退は多かったけど、テストの点数は良かったから。

今村 わ、先生からするとちょっと嫌な感じの生徒ですね。笑

内橋 はい。笑

今村 わたしの時代でも、高校から携帯電話があって・・
   今は、学校は大変ですよね、きっと。

内橋 そうだね。今は授業中みんなやってるだろうしね。
   まぁ、でも僕が今高校生だったら、絶対使ってるからね。

今村 わたしも絶対使ってます!笑
   
   でも、すごい縛られたり、時間をとられる気がして。
   あの青春時代は、面と向かって、
   いろいろ過ごしてほしいなと思います。笑

内橋 何歳だよ。

今村 おばあさんみたいって言われます。笑

内橋 笑 
   人と繋がるためのものが、すべてそこに入ってるからね。

   携帯やパソコンが、人と繋がる媒体になっていて、
   直接会うよりも多くなってる。
   僕もそれはあんまり良くないと思う。

今村 はい。もちろん良い部分もありますが。  

内橋 便利だってことを分かった上で、使ってるならいいよね。

今村 はい。
   
   携帯、iphoneつながりで・・
   itunes、携帯で買う音楽については、どう思いますか?
   CDの音源のクオリティとは、違うんですよね?

内橋 うん。違う。

   MP3だから圧縮されてる。音がもっと狭い。
   配信用にデータを軽くするために失われてる音もある。
   
   そのかわり、便利で簡単に送れる。
   だからこれだけ普及してるんだよ。
   残念な話ではあるけどね。

今村 配信がメインにもなってきてますよね。
   たしかに、とても便利だと思います。

   CDをつくらなくなってる人もいますよね。
   内橋さんは作ってますよね?

内橋 うん。作ってる。
   
   ただ、CDはほとんど名刺代わりみたいなものかな。
   CDもデータだからね。

   でも配信するなら、配信の時に、
   もっとクオリティが高い状態のものを届けたい。

   もっと良い音、良い音楽を届けたい。

今村 内橋さんのCDって、ジャケットもかわいいですよね。
   音楽もいろいろな方とのセッションで、楽しいです。

   わたし、CDが好きで・・
   ちょっと変わってるかもしれませんが。

   ジャケットをみて、久しぶりにきこう!って思うと、
   なんかその時の思い出とか、記憶にもつながったりして。
   
   あと、形がないとよくわからなくて。笑
   
内橋 笑 またおばあさんみたいなこと言ってるね。

今村 ・・はい。笑
   でも、CDつくり続けてください!

内橋 はい。作ります。笑
       
今村 作曲してる時と、ライブで即興の音楽を演奏している時、
   どんなことをしてる時が、1番楽しいですか?

内橋 全部楽しいよ。笑 
   
   全然違うものだからね。
   ただ、やり方としては全部同じ。

   ライブの場合は、やり直しがきかない。
   家での作業は、やり直しがきく。そこが違う。
   
   自分のインスピレーションから生まれたものではあるけど、
   作曲はそれを試しながら、選択していく。緻密な作業。

   ライブは一発勝負だから、その緊張感が僕は好き。
   意外な事もいっぱい起こるし、そうなった時にワクワクする。

   『言葉と音の実験室』のアリス、初日はつっこんだじゃない?
    僕はすごく楽しかった。電池なくなったりトラブルもあったけど。

   「今、そこでできることを、ぱっと考えて出す」
   
   対応できるか、対応できる相手か、問われる。
   
   「今までと違う発想が出てくるか?」

   相手とコミュニケーションをとりながら、
   自分でも意外なものが出てきたりするから、楽しい。瞬発力。

今村 はい。
   瞬間、瞬間で変わっていきますよね。
   わたしも楽しいです。

   音と言葉ってジャンルがちょっと違うじゃないですか。
   音と音でやってる時と、違います?どうですか?

内橋 そうだね。ちょっと違う。
   でも信頼関係があれば大丈夫。面白い。

今村 たしかにそうですね。
   お互い「大丈夫っしょ!」みたいな感覚ありますね。笑

内橋 そう。信頼関係。お互いを受け入れる。

   あと思うのは、
   結局、全部音楽なんじゃないかなとも思う。

今村 あ、分かります!

内橋 そう。
 
   言葉にも、抑揚があって、音だし、
   そこにはやっぱりメロディーがあると思う。
   トーンや大きさも含めてね。音色がある。

   言葉をしゃべる人によって、カラーやイメージがあるから、
   それは音楽になりうるなって。

今村 はい、わたしもそう思います!

   音楽も、発する言葉も、音色みたいだなって思います。

   あと同じ言葉でも、音楽でも、歌詞でも、
   発する人によって、全然印象が違うものになりますよね。

内橋 そう。
   だから『言葉と音の実験室』も、
   どちらもが反対側にいこうとするけど、
   ある意味ひとつの方向にいく。言葉から、音から。

   一見、分かりにくいんだけど、
   感じる人は感じると思う。
   
   面白いよね。考えて聴くっていうよりも、
   感覚で聴くと、更に面白いんだろうね。

今村 そうですね。

   わたし自身も面白いです。
   毎回テーマは変わりますけど、
   いろいろチャレンジしていきたいなって思います。
  
   あと、内橋さんには映画音楽もやってほしいです。

内橋 うん。
   
   僕は、映画がすごく好きだけど、
   いま映画音楽をちゃんとつくってるのって少ないと思う。
   
   やっぱり劇伴(劇の伴奏)が多いよね。
   長いことやってないけど。

   本当に良い映画は音がなくても成立してるものが多い。 

   その上で、音を入れるってことがどういうことなのか?
   よりイメージを拡大できるか?試されるよね。

   それぞれが独立して"いいもの"をつくっているか?

今村 はい。

   子供の頃に観た映画って、エンタメ系も多いですけど、
   音楽も覚えてるんですよね。
   VHSのジャケットやポスターも一緒に。

内橋 良い映画って、全部いいんだよね、結局。

今村 はい。全部いいですよね。
   総合劇術ですよね。

内橋 うん。音楽でいうと、映画を知らなくても、
   その音楽だけでもいいなって思ってもらえることね。

今村 そうですね。それが理想ですね。
   
内橋 そういう現場、やりたいね。

今村 はい。
   いつか、一緒にできたらいいですね。

内橋 やりましょう!

今村 ぜひ!
   
   内橋さんは色々な方とお仕事されてますけど、
   はじめての方からオファーがきた場合は、どうしますか?

内橋 音楽家に関しては、やったことない人は一回やってみる。
   やってみないと分からないし。断る理由がないから。
   時間があればね。どんなジャンルもそうだね。

   相手が、自分に何を求めているのか?
   自分にしかできないことは何か?
   すごく興味があるよ。

今村 じゃあ、内橋さんから、仕事を誘うことは?

内橋 あるよ。それは本当にいいなって思う時は、
   自分から連絡をとるよ。
   その人の音楽の中に、自分が入りたいって思う。

今村 国や年齢、なにも関係なく?

内橋 関係ない。
   一緒にものを作りたいって思うか?
   特に僕は、うたが好きだから、うたの人が多いかな。

今村 UAさんと内橋さんの組み合わせ、すごくいいですよね!
   ライブでの『情熱』とか、自由感がすごくて、わくわくします。
 
   あと『Breathe』(CDアルバム)が大好きで、よく聴いてます!
   
   なんか自然の中にいる感覚というか、
   大地が広がっていくんです。

内橋 ありがとう。嬉しいです。笑

今村 はい。女性の歌手が多いですよね。みなさん素敵な方です。
   男性の歌手っていますか?

内橋 いるよ。細野晴臣さんとか。

   細野さんは、昔から大好きでね。
   巡り合わせで『僕らの音楽』の番組で曲を一緒にやって、
   それからの付き合いだけど、すっごく嬉しかった。

今村 細野さん、いいですよね。

   映画の『メゾン・ド・ヒミコ』の、
   バスのシーンの音楽がすごく好きです。
   
   ちょっと悲しいシーンですけれど、音楽は軽やかで、
   とても素敵なシーンで。大好きです。

   細野さんの音楽は劇伴じゃないですよね。

内橋 うん。劇伴じゃない。
   音楽だけ聴いても、いいよね。
   ちゃんと音楽が独立してる。

今村 はい。
   あと、七尾旅人さんも一緒にやってますよね?

内橋 旅人ね。旅人はね、音楽聴いてすぐ連絡したの。
   
   沖縄に行った時に、店で旅人のCDが掛かってて。
   「これ誰?」って聞いて。
   衝撃を受けて、すぐ連絡先調べて連絡した。
   
   彼がまだ、セッションとか全くやってない頃で。
   今は、もうやりまくってるけどね。笑

今村 じゃあ、内橋さんがきっかけかもしれませんね。笑

   初めて一緒にライブをした時はどうでしたか?

内橋 幸せな時間だったね。
   一緒に音楽の中にいれるってことが、嬉しかった。
   楽しいし、幸せな気持ちになる。

今村 自分から出逢っていったんですね。

   いい出逢いって大事ですよね。
   仕事もプライベートも。

   面白い仕事をやると、それを見てくれた新しい方が、
   面白い仕事をオファーしてくれたり。

   そういう流れが、一番良いなって思うんですよね。
   良い仕事の連鎖。

内橋 うん。それが一番いいと思う。

今村 はい。
   新しい出逢いもあって、
   豊かな繋がりができていきますよね。

   あと、新しい人や、仕事と、出逢えると、
   前に自分が仕事した人や、面白い人も紹介しちゃったりして。
   
   仕事の前後も繋がったりして。
   わたしはけっこう、そういうことが好きです。

   新しい仕事も、直感で決めますか? 

内橋 うーん、あんまり来ないけどね。 

今村 え!じゃあ、来てほしいですね。    
   勿体ないです!    
   
   内橋さんの音楽や、Daxophoneは、
   すごく新しくて、面白いと思うので、
   新しいジャンルの仕事とも出逢ってほしいなって思います。

内橋 うん、やりたいね。

今村 はい。
   ジャンルを問わず、面白そうなものだったら、
   やりたいってことですよね? 

内橋 うん。トライしたい。
   
今村 演劇、ダンス、映画、ライブ・・
   いろいろな音楽の仕事をされていますが、
   どんな音楽をやりたいですか?

内橋 全部やりたいね。笑

今村 爆笑 はい。

内橋 いいものだったらね。
   
   「これに音をつけたいな」って思うものだったら、
   なんでもやりたい。

   たとえばダンサーとやるのも、音楽的なんだよね。
   動きに合った音を出す、ってことを僕はやらないから、
   音は音、動きは動き、であって、「どう絡むか?」

   両者がどこで接点をもってくるか?ということでしかない。

   ただ単純に、動きに合わせて音を出すなら、
   それは劇伴(劇の伴奏)でしかないし、
   劇伴っていう発想自体があまり豊かじゃないと思う。

   「このシーンにはこういう音楽」
   っていう刷り込みみたいなものってあるけど、
    人によって、"印象"って違うと思うから。

   劇伴の世界って、実験しにくいんだと思う。
   やっぱりオーソドックスなものが好かれるんだと思うよ。
   シーンを盛り上げるための音楽っていう認識だから。
   
   悲しいシーンは悲しい音で、ってね。
   それは「答えがわかってる」ってことだと思う。
   だから、そこにはあまりいきたくない。

   人間の感情や動きって、
   そんな単純なものじゃないと思う。

   悲しい、楽しいだけじゃなくて、
   本心を隠してたり、もっと、もっと複雑だと思う。

今村 すごくよく分かります!

内橋 うん。

   「この感情は複雑なんだ」ってことを表現したいなら、
   そこには"複雑ないろいろな音"を入れないと表現できない。

   そうじゃないと、
   見たことのあるものしか作れないと思う。

   あと、何よりも、みてる人がそれを考えなきゃいけないと思う。
   想像するってこと。考えなくてよくなっちゃう。

   みてる人に、「あれ・・?」って思わせないと。

   たぶん、僕のライブに来てくれるお客さんの大半は、
   「何をやるか分からない」って思ってると思うよ。
   
   はじめから期待してない。
   今日はなにをやるんだろう?って。

今村 それは、わくわくしますよね。未知です。
   今日はなにをやるんだろう?って。

内橋 行く前から、なにをやるか分かってるなら、
   わざわざ行く必要ないんじゃないかなって。
   音源とレコードを聴くのと、ほぼ一緒だよね。
   ライブに行くってことが。

   僕らがやってることも一緒だよね。    
   いわゆる"朗読に音楽をつける"っていうことは、    
   始めからやる気ないでしょ?    

   それだけだと、つまらないから。    
   そうじゃないものをやりたいわけだよね。 

今村 そうですね。    
   自分たちも、新しい発見をしながら、
   広がっていきたいです。

内橋 そう。

   新しい発見をしながら、演奏家同士でも、
   自分が解放されて、相手も解放されて。
   同じように、お客さんも解放されなきゃ。
   そうじゃないと、しんどいと思う。
   
   僕は好きに感じて、好きに思ってほしい。

今村 内橋さんにとって、"想像力"ってポイントですよね?

内橋 うん。

   なんでもそうだけど、音楽でも、
   やり過ぎちゃうと説明になっちゃう。それはいやだなって。

   聴いてる人がどれだけ、いろいろなことをイメージして、
   いろいろなことを考えて、想像できるかなって。
   それが、いい音楽、いいライブだなって思う。

   "自分に反芻すること"。
   聴いてる人の経験に、訴えかけること。

   そういう意味では、
   お客さんはみんな違う経験をしてきてるんだから、
   みんな違う反応、感じ方をしてもいいと思う。

   そうさせないようなものはつまらないと思うし、
   その人の、個人的な部分に働きかけてないんだと思う。

   ふと考えたり、思い出したり、心にくるものは、
   限定してないものだと思う。
   隙間を与えてる。全部言い切らない。

今村 たしかに、内橋さん"隙間"がありますよね。
   わたしも隙間とか、隙があるものがすきです。

内橋 隙間がないと、ものを想像する余裕がなくなっちゃう。

   いろいろなモノが見えてくる、
   いろいろなきこえ方がする、同じものなのに。
   
   そういうものがいいなって思う。

今村 はい。すごくわかります。
   これからも、わくわくする音楽、新しい音楽を楽しみにしてます。
   
   内橋さん、ありがとうございました。

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*お知らせ*
2015年3月7日(土) OPEN 19:00 START 19:30
『言葉と音の実験室Vol.4  –薬指の標本–』
@ポスターハリスギャラリー 予約2500円 当日3000円
 ライブスケジュールは、内橋さんのHPへ!

*おまけ* 
内橋さんへのインタビュー、最終回です。 
ちょっと(だいぶですね。笑)間があいてしまいました。 
文字を起こしたり、構成は、最初に全三回分終わっていましたが、 
内橋さんのお父さんについての話を聞いた時、何かが引っかかりました。 
そして、昔クリッピングしていた、ある記事を思い出しました。 
ただ、私の個人的な感覚かもしれない、と時間を置いたのですが、 
時間が経っても変わらなかったので、笑 載せたいと思います。 
親子って、愛情と憎しみとあって、複雑で、小さくて、大きくて。
きっと、お父さん、心配だったんじゃないかな。
今の内橋さんの音楽を聞いたらどう思うかな?なんて思いました。

朝日新聞『おやじの背中』田中泯さんの記事。 
強烈な一文からはじまります。以下全文掲載します。 

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おやじの背中 ー事件現場で死教わったー 田中泯さん 

おやじの期待を圧倒的に裏切ってきたと思う。 
僕が踊りをやることを反対はしなかったけれど、 
「男のやる仕事なのか」とずっと言っていた。 
病院で聞いた最後の言葉も「男の仕事だな」だった。 
「はい、男がやるべき仕事です」と本気で答えたけれど
とても悲しかった。警視庁の刑事で、ほとんど家に帰って来なかった。 
弟は「父ちゃん」と甘えていたけれど、僕は「父さん」としか
呼べなくて、 おやじが死ぬまで敬語でした。
「あの人」と言った方がいいかもしれない。 
小学生の頃、何度か死体を見せられたことがあります。 
近くの河原で自殺死体が見つかると、僕を引っ張って連れていき、 
人垣の前に押し出して「見ろ」と言う。台風の後の水死体もあった。 
仕事柄たくさんの死を見てきて、人の死を僕に教えたかったのだと思う。 
怖かったけれど、これが人の体か、死んだ体なのかと、
僕は夢中で見てしまった。強く残っています。 
退職後は、自宅の庭で1畳ほどの小さな畑をつくっていました。 
両手で土をもみほぐす、その横顔を隣で見て 
「この人は、こういうことが好きなんだなあ」と思った。
農家の次男坊。 田中というくらいだから根っからの百姓なんでしょう。 
僕も踊りと農業をするため、85年に山梨に移りました。父を呼ぼうとも
思いましたが、直後に亡くなり、間に合わなかった。80歳でした。
こっちに来ていたら、もっと長生きしていたんじゃないかなと思う。 
小学校卒で、警視まで昇進しました。表彰状をいっぱいもらっていた
けれど、晩年には庭で、それらを燃やしていた。
「それ、賞状ですよね」と聞いたら、 「いらないんだよ」と。
黙って燃やしている横顔を覚えています。
賞状は額に入れず、丸めっぱなしだった。
肩書きなんてどうってことない、という人だったんだと思う。
こんな紙っぺら、とね。僕も同じ思いだったから、うれしかった。 
おやじはまさに肩書も勲章も必要ない、 
一人の人間として生きたかったんだろうと思います。 
(聞き手・中村真理子) 朝日新聞2009年7月26日日曜日掲載

*ひとこと* 
内橋和久さんへのインタビュー、今回もロングインタビューとなりました。
内橋さんは、素敵な仕事をたくさん重ねてきている方ですが、
音楽も、人間性も、とても柔軟な方で、ただ、その人が、そこにいます。
それはすごく大切なことですが、一番難しいことのような気もします。 
文字を起こしてから時間は経ちましたが、文章はそのままなのに、 
読む方の、私の感じ方は変わっていて、面白いなと思いました。
タイミングによって、受け取り方って変わりますね。不思議です。 

ぶれない人の言葉に、ぶれっぱなしの私は、いろいろ学びます。 
『今日のお相手』二人目のゲストを引き受けてくださった内橋さん、 
そして、ここまで読んでくれたみなさん、ありがとうございました。

今村沙緒里 

PROFILE 内橋和久 KAZUHISA UCHIHASHI
ギタリスト、コンポーザー。http://www.innocentrecord.com/
欧米で高い評価を得る即興バンド「アルタード・ステイツ」
(内橋:g、ナスノミツル:b、芳垣安洋:ds)のリーダー。
83年頃から即興を中心とした音楽に取り組み始め、国内外の
様々な音楽家と共演。劇団・維新派の 舞台音楽監督を25年
にわたり務めている。他にも宮本亜門「三文オペラ」「サロメ」
河原雅彦「時計仕掛けのオレンジ」の音楽監督も務める。
音楽家同士の交流、切磋琢磨を促す「場」を積極的に作り出し、
「フェスティヴァル・ビヨンド・イノセンス」(神戸、大阪)
も12年間継続。近年はUA、細野晴臣、 くるり、七尾旅人、
青葉市子などのポップミュージシャンとも積極的に交流する。
また、2002年から2007年までNPOビヨンド・イノセンスとして
大阪でオルタナティヴ・スペース Bridgeを運営。
ハンス・ライヒェル氏が発明した新楽器ダクソフォンの日本唯一
の演奏者。今年の6月に横浜でダクソフォンの日本初の展覧会を
開催。近年はインドネシアのバンドSENYAWAを始め、アジアの
ミュージシャンとのプロジェクトを積極的に進めている。
現在、ベルリン、東京を拠点に活躍している。

PROFILE 今村沙緒里 SAORI IMAMURA
俳優、インタビュアー。
オフィシャルウェブサイト http://saorix.jimdo.com/



			

ドキュメンタリー監督     松江哲明さん

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ドキュメンタリー監督、
松江哲明監督へのインタビュー、
最終回です。

人と人。映画と仕事。大きいと小さい。男と女。

異なるものを、
どんなふうに、ひとつにまとめるのか?
バランスをとるのか?

そこには松江監督の、
考える力と、人間力が、関係してる気がします。

松江さんの、大好きな方達がたくさん登場されました。

皆さんへの、愛情が溢れていたからでしょうか。
私まで知り合いになれた感覚です。

そして『フラッシュバックメモリーズ3D』
第23回日本映画プロフェッショナル大賞第五位、特別賞、
おめでとうございます!

これからも、面白い作品を楽しみにしています。

第四回は、
監督としてだけでなく、
人としての「生き方のセンス」?
のようなお話しになりました。

(夢って、角度を変えると、ひょっこり叶ったりするのかもしれません。)

第四回 最終回
人間をみる

今村  これからは、大きい興行のものと、
    インディペンデントのもの、両方やる感じですか?


松江  はい。
    でも、僕には大きいものはこないですよ。


今村  くると思います。笑

    たぶんお客さんからみたら、
    『フラッシュバックメモリーズ』は大きい興行に見えますよね?


松江  そうかもしれないですね。
  

今村  それはすごいことだと思います!


松江  なんか、そう見えないものを、そう見せるとか、
    そういうのが好きなんですよ。

    最初から大きいものを見せるより、ギャップというか。
    この規模のことを、これでやっちゃうんだ、みたいな。


今村  ギャップですね!

    その例が『フラッシュバックメモリーズ』ですね。
    

松江  はい。
    
    色々な場所で上映されて、4D上映っていう形もできて、
    たくさんの人がみてくれて、嬉しいです。

今村  これからも、色々なことを、
    両方、やっていって欲しいなって思います。


松江  はい。
    両方やっていきたいです。

    小さいものもやって、大きいものもやると、
    すごく豊かにみえると思うんですよ。

    あと、インディペンデントのものって、
    直接やりとりすることが多いじゃないですか。

    大変なこともあるけど、
    信頼できる相手やチームとだと、やりたいことが共有できて、
    「純度」が高くなるというか。
    
    その「純度」が作品にも反映される気がします。
    

今村  「純度」、良い言葉ですね!

松江  はい。

    もちろん、大きい興行の良さもあると思います。
    関わってくれる人やお客さんも多いと思いますし。

    なので、両方、やっていきたいです。 

今村  松江さんは、セルフマネジメントができてますよね。


松江  それは別にやってくれる人がいないですから。
 
    疲れますよ。笑 
    全部自分でやるのは。

    助監督とかは、若い人にやってもらってます。

    大事な打ち合わせとかでも、立場関係なく聞きます。
    「どう思う?」って。
    

今村  色々な人の意見、大事ですよね。
    
    あと、年齢が違ったり、男女だと、違う生き物なので、
    意見が受け入れやすくなりますよね?


松江  そうそう。
    
    映画をたくさんみてるとか、
    そういうことだけじゃなくて。

    「生き方のセンス」がある人というか。


今村  はい。分かります。

松江  あと、若い人や、メイクさんとか。


今村  メイクさん!


松江  うん。テレビの番組やってる時とかも聞いたりします。


今村  はい。メイクさんって色々な現場を経験してるし、場数も。
    1番状況見てくれてたりしますよね。


松江  そうそう。
    あとは年齢が違う人とか、色々な人に聞きます。

今村  そう言われると、松江さんの現場、
    若い人もたくさんいる感じしますね。


松江  はい。若い人とも一緒にやります。
    

今村  一方で、前野さん達とやる時は、
    決まった男組なイメージがあります。

松江  そうですね。


今村  それが面白いなって思います。
    
    『フラッシュバックメモリーズ』もいつものメンバーですか?


松江  編集の今井大介さん整音のタカアキさんは続いています。


今村  作品によって違うんですかね?


松江  うん、そうかな。
       
    自分が監督の時は、
    好きな人たちで、わいわいやる感じになっちゃうから、
    いつものメンバーなのかな。

    でも、
プロデュースの時は、若い人も入れたいなって。
    
    「人」が入ってくるようにしたいなと思ってて。
        
今村  監督とプロデューサー、役割はだいぶ違いますか?

松江  はい。
    極端な話、映画監督できる人は、なんでもできると思いますよ。


    映画監督で、文章を書けない人はほとんどいないと思います。
    みんな書けると思うし、トークもできると思います。
    場数はあるかもしれないけど。
       

今村  たしかに、そうですね。
 
    その人の映画をみたことがなくても、
    話が面白い監督は、映画も面白いだろうなって思います。
    みてみたいなって思います。

松江  はい。

    「人」として、魅力がある人が作ったら、
    きっと、面白い作品になると思いますよ。
    
今村  そうですね。
    
    でも、監督って、
    全員と向き合わなきゃいけないですから、大変ですね。


松江  うん、大変ですよ。笑
    
    「人間を見る」っていうか。


今村  「人間を見る」、そうですね。

    人によって、頼み方や演出の仕方も、
    変えなきゃいけないですもんね。


松江  「映画監督やってなきゃ、犯罪者だよ」
    みたいなことを言う人は、
    あれは、逆だと思うんです。犯罪には、絶対いかない。

    映画監督って、自分でブレーキをかけられる人だと思う。
    
    映画監督をやってて、人非人みたいなことを言ったり、
    ひどいことを言ったりする時は、
    逆にブレーキを外してるんじゃないかな。
    それか、楽しんでるとか。

    面白い映画監督は、論理がちゃんとしてると思うんです。
    

今村  たしかにそうですね。
    
    監督って、すごく考えなきゃいけないですもんね。
    一番、質問もされますし。

    映画監督、すごいですね。

    松江さんが、自分で編集もやられる時と、
    編集を頼む時は、どういう時ですか?


松江  最近は、今井大介さんです。
    僕が編集をやっていたのは、『あんにょん由美香』まで。


今村  最初に頼んだきっかけは何だったんですか?


松江  『極私的神聖かまってちゃん』の時に編集をお願いしたら、
    すごく上手に編集してくれて。

    これからはこの人に頼もう!って。

    だから『フラッシュバックメモリーズ』『ねぇ、タクシー』も。


今村  早かったですよね!

    1日で出来上がってきましたよね。

松江  うん。早いんですよ。笑 
    
    早くて、上手いです。
    
    人間的に嘘をつかない人で、時間を守ってくれるとか。
    「人として好きだから」っていうのもありますね。


今村  周りに良いメンバーがいますね。

松江  はい。

今村  松江さんが、いいなって思う映画監督はどなたですか?


松江  山下くん!

今村  山下監督も、撮り続けてますよね。


松江  うん、あとデビューが一緒だから。
    山下くん、好きです。


今村  私も『リンダリンダリンダ』大好きです。
    ペ・ドゥナも大好きで、よく観ます!


松江  笑 面白いよね。
    同世代だし。年齢は僕が一つ下だけど、卒業は同じで。


今村  同じ学校じゃないですよね?


松江  違います。
    山下くんは大阪芸大で、僕は日本映画学校。


今村  交流は、かなり昔からですか?


松江  そうですね。
    その年に行く映画祭が一緒だったから。
    『あんにょんキムチ』『どんてん生活』。


今村  山下監督はトークショーとかでしゃべりますか?


松江  うん、上手いです。

    
    やっぱり、作ってる作品も面白いし、作り続けてるし、
    人としても、好きなんですよね。

今村  本当に、面白い方が周りにたくさんいますね。


松江  うん。
    
    僕は「人」を見る目は自信があります。


今村  昔からですか?


松江  うーん、
    
    「人」って、見て分かること、あるじゃないですか。


今村  はい。


松江  そう。


今村  あれは、なんでしょうね?直感?


松江  そういうものだと思いますよ。
    
    そこに気付いてるから、
    僕だって監督を15年くらいやってこれてるんだと思います。

今村  はい。すごく分かります。
    とても本質的で、大事なことだと思います。  
 
    良いお話を、たくさん話していただきました。

    でも、松江さんが、
    ミュージシャンになりたかったのは知らなかったです。笑
    楽器はやるんですか?


松江  笑 いや、できないですよ。
    僕、音符読めないです。


今村  笑 じゃあ、ボーカルですか?


松江  はい。


今村  自分で曲を書いたりはないんですか?
    
    映画の曲を作ったり、歌ったり。


松江  『トーキョードリフター』!


今村  あ!そうですね!!
    作詞、松江さんですもんね。


松江  そうそう。

    夢が叶ったって思ったもん!


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今村  そんなドラマがあったんですね。
    知らなかったです!
    
    『トーキョードリフター』、いい唄ですよね。


松江  いい唄ですよねー。笑


今村  曲も歌詞も、いいですよね。


松江  僕は作詞だけですよ。


今村  はい。
    でも違う人が作ったものの合作で。しかも・・


2人   前野さんとの共同作業!笑

今村  やっぱり仲良いですね。


松江  仲良いのかな。


今村  フィルターは違うけど、通じるものがあるんですね。


松江  ですかね。笑

今村  今年も忙しそうですね。
    
    新しいことも始めてるんですよね?

松江  今は、『音楽』という大橋裕之さんの原作漫画を、
    岩井澤健治監督でアニメーション映画をつくってます。
    
    僕は九龍ジョーさんと、プロデューサーです。
    
    その『音楽』から、音楽通販部も発足しました。
    
    若い人に囲まれてます。笑 
    面白い作品を作りたいと思ってます。

今村  楽しみですね。Tシャツ、かわいいです!

    松江さんにすすめられて、大橋さんの漫画買いました。
    まず『シティライツ』!面白かったです。目が好きです。笑
    
    これからも、松江作品を楽しみにしてます。 
    
松江  はい。
    面白い作品、作ります。 

今村  松江監督、ありがとうございました。

おわり

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*ひとこと*
松江さんが作詞した『トーキョードリフター』。ご自身の結婚式で、
作曲した前野さんと一緒に唄っていました。素敵でした。
松江さん、また一つ夢が叶いましたね。夢って、続けてると叶う?
歌詞の一部「あなたよりずっとこの街が好き」は奥様の言葉と知り、
さらに素敵だなと思いました。この街が好き。この街でできること。

『フラッシュバックメモリーズ4D』には、今までと「今、ここで」が、
切実に溢れていて、生きるエネルギーに圧倒されました。
病院とかでもみれるといいな。元気になれて、生きる力をもらえます。
私はそういう映画が好きです。これからの松江作品も楽しみです!

*おまけ*
松江哲明さんへのインタビュー、ロングインタビューとなりました。
松江さんは言葉が生きてる方なので、なるべくそのまま、短くしたくない、
そう思いました。全四回、慣れない部分も色々ありましたが、
『今日のお相手』一人目のゲストを引き受けてくださった松江さん、
そして、ここまで読んでくれたみなさん、ありがとうございました*
次回の『今日のお相手』のゲストは、音楽家の内橋和久さんです。
音楽と、内橋さんの人生について、いろいろなこと聞きたいと、
思ってます。私自身も楽しみです。お楽しみに*今村沙緒里 

PROFILE 松江哲明 ドキュメンタリー監督
1977年、東京都生まれ。 1999年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が、山形国際ドキュメンタリー映画祭「アジア千波万波特別 賞」「NETPAC特別賞」平成12年度「文化庁優秀映画賞」などを受賞。その後『カレーライスの女たち』『童貞。をプロデュース』など刺激的な作品をコ ンスタントに発表。 2009年、女優・林由美香を追った『あんにょん由美香』で第64回毎日映画コンクール「ドキュメンタリー賞」、シンガーソングライター前野健太が吉祥寺 を歌い歩く74分ワンシーンワンカットの『ライブテープ』で第22回東京国際映画祭「日本映 画・ある視点部門」作品賞、第10 回ニッポン・コネクション「ニッポンデジタルアワード」を受賞。著書に『童貞。をプロファイル』『セルフ・ドキュメンタリー―映画監督・松江哲明ができる まで』など。2012年「第25回東京国際映画祭」で記憶障害に陥ったミュージシャンGOMAを追ったドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリー ズ 3D』がコンペティション部門観客賞を受賞。映画専門誌の2013年度日本映画ランキングにおいて、キネマ旬報10位、映画芸 術8位を記録し、洋邦混在の映画秘宝ランキングでも17位を記録する等、名実ともに2013年度を代表する作品の一つと呼べる。 http://flashbackmemories.jp/

PROFILE 今村沙緒里 俳優 インタビュアー
オフィシャルウェブサイト http://saorix.jimdo.com/


					

 ドキュメンタリー監督     松江哲明さん

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松江監督は、好きなものへの愛情が大きい人です。

好きなもの、好きな人と仕事をするには、
どうすればいいだろう?

そのことを考え続けている気がします。

先日、松江監督と、前野健太さんと、
『ねぇ、タクシー』の打ち上げをしました。

ジャンルは違うけれど、思うことは似ていて、
“おなちゅう”(同じ中学校)の集いみたいでした。

松江さんと前野さんの特別な関係に、
ちょこっと入れてもらえて、嬉しいです。

同時に、チャレンジを続けていきたいなと、
思わせてくれる人たちです。

第三回は、松江さんの、
好きなものを好きでい続ける方法?
みたいなことを、聞いてみました。

(仕事だけじゃなくて、恋愛やらにもあてはまる気がします。)


第三回
変わらないために変わり続ける

今村  『フラッシュバックメモリーズ』『トーキョードリフター』、
    GOMAさん前野さん、共にミュージシャンです。

    音楽のドキュメンタリー映画が続きました。
    それって、偶然ですか?


松江  いや、それはプロデューサーにとっては、必然でしょ。
    
    僕がどうゆう風に撮るか、
    分かって依頼してきてるだろうし。音楽ものでって。

    GOMAさんの『フラッシュバックメモリーズ』の時は、
    もっと、最初べたべたなドキュメンタリーだったけど、
    僕が音楽風にしちゃったから。

    次は、同じことするつもりはないです。

    でも、『フラッシュバックメモリーズ』 つくっちゃったから、
    音楽では、しばらくそれ以上のものはつくれないかなって。


今村  そうですね。私もそう思います。
    
    色々な意味のチャレンジでしたもんね。


松江  うん。
    
    ただ、前野さんはちょっと違くて。
    前野さんを3Dでとかっていうのは思わないし。


今村  飛び出す前野さん。笑
    
    でも、前野さんとは、
    きっとやり続けるんだろうな、って思います。


松江  うん、僕も。笑 
    前野さんはずっと撮り続けると思います。

今村  想像できます。笑 
    あの距離感で。


松江  でも、前野さん、嫌だと思うよ。


今村  え!なんでですか?


松江  僕がずっと撮ってるの。嫌だよ。笑 
    
    僕は撮り続けるけど、
    もっと色んな人に撮って欲しい、前野さんを。

    例えばPVを撮る人が、前野さんのライブ映画を撮るとか、
    スタジオライブを撮るとか。
    そういうことをしたらいいと思う。

    もっと前野さんは色々な人と・・


今村  うん!すごく分かります!

    
松江  でも今、前野さんは、
    そういう風にしてるから嬉しいですよ。

    映像に関しては、こう言っておきながら、
    僕が言うのおかしいんですけど、

    もし、他の人が撮るなら、
    「僕よりも面白いものを撮って」って思います。

    で、たぶん、他の人はそれで悶々としてると思うんですよ。
    "松江と前野"以上に撮れない、だからやらない。

    それは僕以外の監督、がんばって!って思います。

    前野さんはミュージシャンとしては、
    すごく僕の予想を超えた人で、
    いろいろなすごい人たちと付き合っているし。

    特にジム・オルークさんとか。
    面白いなって。素晴らしいと思う。

今村  たしかに、そうですね。
    
    私が思うのは、メディアを通しての前野さんのイメージと、
    実際に会って、面と向かった時や、話した時の印象が、
    違いすぎたので。笑


松江  あぁ、そうですね。


今村  それが良いことでもあると思うんですけど。
    
    もっと、違う部分もみえてもいいのかなって。
    でも、分かりません。笑
    
    ただ、すごく面白い方だなって思います。


松江  まぁ・・
    前野さんの話は、いいんじゃないですか。笑


今村  爆笑 はい。
    2人の関係は変わらないんだろうなって思います。

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松江  うん。
    
    というか、
    変わるから、変わらなく続けられるんです。

    久しぶりにやって、前と同じだとね、
    この人、成長してないなって。

    僕はやっぱり、
    「この人なんで成長しないんだろう?」
    っていう人、嫌だもん。


今村  たしかに。そうですね。

松江  松尾さんに関しても、
    状況は変わってるのに、自分は変わらないために、
    自分自身をパアーアップしてるというか。

    別に松尾さんに、劇場映画を撮って欲しいとか、
    海外を目指すべきとか、そういうことじゃなくて。
    
    "自分の場を闘うために、常に挑戦し続けてる"
 
    そういうところが変わってないという。
    
今村  松尾さんと前野さん、一緒ですね。


松江  うん。
    
    テクニックは変わり続けるけど、魂は変えない。

    テクニックが変わってない人って、
    けっこういるんですけど、それは怠惰だなって。

    『変わらないために、変わり続ける。』

今村  変わらないために、変わり続ける。

    うん、すごく、よく分かります。
    大事なことですね。

    松江さんって、
    例えば、CMとかって撮ったことありますか?


松江  ない!


今村  CMとかも面白いんじゃないですか?


松江  ・・僕にはこないですよ。笑


今村  勿論、色々な要望があって大変でしょうけど、
    そういう制約の中でつくるのも、
    面白いんじゃないですか?


松江  やりたいです。


今村  はい。分からないですからね。
    人生は、何が起こるか。笑

    決められた中で、
    松江さんならどんなアイデアを出すのか、とか。

松江  たしかにそういうの、好きなんです。
    制約の中で変なことやるっていうのが。

今村  笑 そうだと思います。
    いつか、やってほしいです。楽しみです。

    松江さんが、
    その時、その作品をつくっている時は、
    なにを思っているんですか?

    目の前の作品がどうやったら良い作品になるか?


松江  うーん。
 
    いや、そういう風に考えてる時も勿論あったけど、
    最近は違ってて。


    ドキュメンタリーって「人の人生を撮らせてもらう」
    から。
出た人が良いものにしようって。

    出た人が後悔するものは、なるべく嫌だなって。


今村  それ、すごく、分かります。


松江  出た人にとって良いものであれば、
    必然的に良い作品になるんじゃないかって思いだして。
    
    『ライブテープ』頃からかな。

    一時は、本当に誰を傷つけようとも、絶縁しようと、
    良い作品のためにって。

    でも、それは間違ってるというか、
    そういう風にはもうやめようって、今は思う。


今村  きっかけって、なんだったんですか?


松江  たぶん共同作業でやりだしたというか。
    『ライブテープ』の時に自分のクレジットを、
    構成・演出から、監督にして。

    別にそれは、映ってる人だけじゃなくて、
    スタッフ全員でつくってる。そういうことかな。

    でも、やっぱりドキュメンタリーって、
    GOMAさんとか前野さんとか、
    映画なんてどうでもいいひとじゃないですか。

    そういう人に協力してもらう方が、
    その人にとって、リスクが高い気がする。

    僕や、たっちゃん(撮影監督:近藤龍人さん)とか、
    タカアキさん(録音:山本タカアキさん)とかって、
    
    "プロフェッショナルにこうすれば良いものになる"
    っていう技術があるから。


今村  たしかにそうですね。


松江  技術ももちろん大事だけど、そこだけじゃなくて、
    その「人」が発してるエネルギーをどういう風にするか?
    っていう。その方が楽しいんですよ。
    
    その方が良い気がする、映画作ってて。
    別にそれは善い人ぶってるとかじゃなくて。


今村  はい、ものすごく、分かります。


松江  うん、その方が楽しい。
    そういうこと。


今村  松江さんが『トーキョードリフター』の予告編で、
    言ってるじゃないですか。

    「映画を撮った時点でポジティブになる」って。

    あれ、すごくいいなって。

    でも中には作品の為にどうなってもいい!
    みたいな人もいるじゃないですか?


松江  うん、うん。


今村  その作品をみた時、みてるこちら側にも分かるような。
    
    ドキュメンタリーに限らずですが、
    印象にはすごく残りますし、
    私も昔はそういう作品、好きでした。

    ただ、私も偽善者ぶってるわけじゃなくて、
    最近は、最終的に関わってる人やお客さん、
    みんなが、ハッピーになれる方がいいなって、
    よく思うんですよ。
    
    歳をとったのもあると思うんですけど。笑


松江  うん、うん。
    
    でも・・分からない。

    人によっては、まだまだだよって思う人も
    いるかもしれないし。

    ただ僕は、自覚をして、
    ひどいことをしてきたって、ありますよ。

    "作品至上主義"の時があって。

    やっぱり、これが残ってることで、
    将来誰かを傷つける可能性があるし、
    撮って上映して傷つけてしまったりもしてるから。

    で、そういうつもりがなくても、
    その人にとっては、撮られてる時と、
    上映される時と、気持ちが変わってる場合もあるし。

    「こんなもの作りやがって」
    ってなったこともあるから。

    なんかもう、
    あんまりそういう経験をしたくないんですよ。
    疲れちゃう。


今村  それがドキュメンタリーだと、尚更ですよね?


松江  そうそう、そう!


今村  みる人は、「本当の姿」と思う人も、
    いるわけですからね。


松江  そうそう。本当に、そう。
    それが、最近考える、かな。

今村  そんな松江監督の映画『フラッシュバックメモリーズ』、
    そして、前野健太さんのライブ(4月4日!本日!)、
    2つとも、おすすめです!

つづく

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*おまけ*
『フラッシュバックメモリーズ3D』を久しぶりに観ました。
2度目でしたが、途中から大号泣で笑われてしまいました。
「映画を映画館で観てもらうにはどうすればいいんだろう?」
多くの方が考える問題に、松江監督なりの答えがあります。
はじめて観た時はびっくりしたけど、2度目はびっくりしません。
でもGOMAさんの人生に、生きる力に、大きく心を動かされました。
そうだ、これは人生の映画だった!
GOMAさん自身が、「この時の自分をみて、襟を正さなきゃなと思いました」
「松江監督に感謝してます」と誠実に話していて、
松江監督が考えていることとも一致していて、素敵だなって思いました。
3度目は『フラッシュバックメモリーズ4D』が待っています。
どんなことになるんだろう?
きっと、なにかが変わります。是非、みなさんに観てほしい映画です。

松江監督へのインタビューは次回が最終回です。
読んでくれてありがとうございます。お楽しみに*今村沙緒里

PROFILE 松江哲明 ドキュメンタリー監督
1977年、東京都生まれ。 1999年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が、山形国際ドキュメンタリー映画祭「アジア千波万波特別 賞」「NETPAC特別賞」平成12年度「文化庁優秀映画賞」などを受賞。その後『カレーライスの女たち』『童貞。をプロデュース』など刺激的な作品をコ ンスタントに発表。 2009年、女優・林由美香を追った『あんにょん由美香』で第64回毎日映画コンクール「ドキュメンタリー賞」、シンガーソングライター前野健太が吉祥寺 を歌い歩く74分ワンシーンワンカットの『ライブテープ』で第22回東京国際映画祭「日本映 画・ある視点部門」作品賞、第10 回ニッポン・コネクション「ニッポンデジタルアワード」を受賞。著書に『童貞。をプロファイル』『セルフ・ドキュメンタリー―映画監督・松江哲明ができる まで』など。2012年「第25回東京国際映画祭」で記憶障害に陥ったミュージシャンGOMAを追ったドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリー ズ 3D』がコンペティション部門観客賞を受賞。映画専門誌の2013年度日本映画ランキングにおいて、キネマ旬報10位、映画芸 術8位を記録し、洋邦混在の映画秘宝ランキングでも17位を記録する等、名実ともに2013年度を代表する作品の一つと呼べる。 http://flashbackmemories.jp/

PROFILE 今村沙緒里 俳優 インタビュアー
オフィシャルウェブサイト http://saorix.jimdo.com/

 ドキュメンタリー監督     松江哲明さん

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ドキュメンタリー監督って、なんだろう?

わたしが松江哲明監督と初めて出会ったのは、
2012年の東京国際映画祭でした。
その時話したのは、5分くらいだったけれど、
とても印象的でした。

からっと笑う笑顔と、嘘を言わない佇まい。

それから交流が始まり、
今日まで、色々な話をしてきました。

前野健太さんのMV『ねぇ、タクシー』では、
一緒に作品も創りました。

つねに、新しいことにチャレンジする松江さん。

自分と相手、社会と時代を、
鋭く温かく見つめる視点。

『今日のお相手』、最初のゲストは、
松江哲明監督です。

松江さんは、今、 何をかんがえているんだろう?

(2014年2月13日 大塚の居酒屋にて)


第一回  
全部自分でできる人になりたかった

今村  子供の頃から映画監督になりたかったんですか?

松江  いや、最初はミュージシャンになりたかった。

今村  知らなかったです。笑

松江  大江千里さんが好きで。
    子供の時は、映画でいうとジャッキー・チェーン。

今村  笑。前野健太さんと一緒ですね。(『さみしいだけ』の歌詞)

松江  "全部自分でできる人"になりたかった。

    大江千里さんも、芝居やったりとか、作詞作曲とか。
    なんていうのかな、全部自分でやるの。

    組織に属してどうっていう人より、
    独立してその人のもの、っていうことに憧れた。

今村  小さい頃からそう思ってたんですね。

松江  うん。原稿を書く仕事で、
    久しぶりに『GO』って映画を観て。

    映画の中で、朝鮮学校に通ってる子達が
    「俺は会社に入らない」って台詞があって。
    「会社に入っても社長になれないし」って。
    希望とか望みがないところに行っても、仕方ないって。

    僕もそういう気持ちがあったんですよ。

    どうせ僕は会社員になっても、
    自分の出自とか、家族の中で話はしないけど、
    たぶん僕は、この国ではマイノリティというか。

    だから自分でやれる人になろうって。

今村  全部自分でできる人に。

松江  うん。ただ、僕のじいちゃんは逆の考え方で。
    公務員になってほしかったんです。
    親父よりもじいちゃんが。

今村  韓国の方?

松江  うん。韓国から来てる人だから。
    僕に安定してる仕事に就いて欲しかったんですよ。

    じいちゃんが「帰化してるんだから日本人と一緒だから」
    って、よく言ってて。

    要するに、日本人になろうとした人だったから。

    そういうのはずっと言われ続けてた。
    その反発というか。
    うちのじいちゃん、帽子屋だったんですよ。

今村  帽子屋さん!かっこいいですね。

松江  うん。家に職人さんがよく来てて。
    みんなで飯食って。

今村  お父さんよりも
    おじいちゃんの方が強かったんですか?

松江  家の中の強さで言うと、じいちゃんの方が強かった。
    じいちゃんの方が個性的というか強烈。存在感とか。

    威圧感は、『血と骨』のビートたけしさんみたい。
    あの映画見ると、本当に在日一世ってこんな感じだなって。
    映画みたいに暴力を振るったりはしないけど、
    雰囲気がそっくり。

今村  お父さんは会社員ですか?

松江  うちの父親はトラックの運転手で。
    あ、でも会社員です。

今村  松江さんに、会社員はすすめました?

松江  いや、「好きなことをやれ、やりたいことをやれ」って。

    それは父親が自分で出来なかったから。

    月曜から金曜まで働いて、
    土日の休みは映画を見ることが楽しみで。
    家族を旅行に連れてってくれたり。
    優しくて良い父親だった。

    サザエさんでいう、マスオさんみたいな人。

今村  やさしい方?

松江  うん、すごくやさしい。やさしくて自己主張が弱い。

今村  やっぱりそれはおじいちゃんが強かったから?

松江  父親は、婿養子だったから。
    ずっと家族の為に働いた人。
    今思うと、本当にやさしくて偉い人だなって。

    僕は、父親すごい好きですよ。今でも。

今村  あの『ライブテープ』(松江さん監督作品映画)の?

松江  そうそう、そう。

今村  私は『ライブテープ』を観て、
    松江さんのお父さんって、どんな人だったんだろう?って。

松江  うん。すごく良い人で、やさしくて。
    母親は今一人で住んでるけど、一緒に住む自信はないです。
    喧嘩しちゃったり。

    だけどもし、父親が生きてて一人だったら、
    きっと、一緒に住んでるかもしれない。妻を連れて。
    なんか、父親とは黙ってても苦しくないっていうか。

    僕、父親好きなんですよ。

今村  松江さんが、女性に優しいのは、
    お父さんの影響ですかね?

松江  たぶん、そう。笑 
    やさしいですか?笑

今村  やさしいですよ。

松江  あ、たぶん似てるところあると思います。

今村  ね。あと、女性讃歌。

松江  あ、あるある。
    親父の影響ですかね?

今村  そんな感じします。
    松江さんの作品、色々ありますが、
    私は女性讃歌が多いなって思って。
    もっと女性にも観て欲しいなって思います。

    あと前野さんがよく「松江さん、もてるからな」って。

松江  もてる?笑

    でも父親のそういうところはいいなって思ってました。
    すごく厳しいというか、常識を大事にするというか。

    本当に多分、誰から観ても 良い人ですよ。
    人から見たら物足りないとか思われるかもしれないけど。

    松江の親戚も、父親の親戚も、集まると、
    我が強いんですよ、とにかくキャラクターが。

    「日本の社会の中では、在日は職につかないとだめだ」って。
    だから、みんな焼き肉屋とかパチンコとか、医者とか。
    キャラクターが濃い!嫌でしたね。

今村  子供ながら?

松江  うん、子供の頃から。韓国人ってことが。
    よくあの中に僕いるねって。

    『血と骨』の世界です。
    でも父親だけそういう人じゃなかった。
    自分を出さない。写真を撮る時も一番後ろ。
    で、僕はそういう父が好きだった。

    本人は映画が好きだったから、
    映画の中に憧れとか、自己投影してたのかもしれない。
    分かりやすい映画が好きで、スティーブ・マックイーンとか
    アメリカ映画のヒーロー映画とか。
    テレビで言うと『西武警察』『太陽にほえろ』とか。

    だから僕の好きなものを、
    父親は分からないところもあったと思う。

今村  なるほど。

松江  自分が映画やりたいって言い出した時には、
    父は北野武とかインディペンデント映画とか好きじゃなかった。

今村  超王道が、好きだった?

松江  うん、超王道。『寅さん』とか『釣りバカ』とか。
    段々映画の趣味がずれてきて。

今村  でも、松江さんの中にも、
    王道を好きな部分ありますよね?

松江  あります。はい。

今村  私は両方撮ってるのがすごいなって思うんです。

    少数のマイノリティのものと、大衆性のものと。
    振幅の広さが稀有だなって思います。

    前野さんとは、最初に出会ったのはいつですか?

松江  2008年の春ですね。

今村  こういうミュージシャンになりたかった!
    って思いました?

松江  というか、こういう人がいるんだ!って。

    自分が表現したいことを、
    僕は映画でやってるけど、前野さんは歌でやってる人。

    すごい感性が近いなって。似てるなって。

今村  すぐに、話す関係に?

松江  うん、CDをもらって。
    僕はCDもらっても良いと思わないとすぐ聞かないし、
    そんなCDいっぱいあるんですよ。

    ただ前野さんのは本当に毎日聴いてて。

    仲良くなったのは、僕が自転車で事故にあった時かな。
    その時に、前野さんと直井さん(SPOTTED PRODUCTIONS)
    が、ウチに、お見舞いに来てくれて。

    僕は前野さんの『天気予報』という曲が好きで、よく聴いてた。
    iTunesの再生回数が、100回近くになってて。
    まだCDもらってから、日が浅いのに。

    それが、前野さんはすごく嬉しかったみたいで。

今村  それは、嬉しいと思います!
    私は初めて『ねぇ、タクシー』で、お会いした時に、
    2人がすごく仲が良いなって、思いました。

松江  仲良くないですよ。笑

今村  松江さんはそう言いますけど、
    仲良いです。笑 同い歳ですか?

松江  いや、前野さんの方が2つ下かな。
    僕に敬語です、前野さん。

    なんていうんだろうな・・
    あ、でもこの間夢に出てきた!

今村  爆笑 夢にでてくるって相当です。

松江  夢で、前野さんの家に泊めてもらったら、
    いじめっこの同級生がいて。

今村  そういう昔話があったんですか?

松江  いや、ない。笑 
    でもたぶん、前野さんいじめられてたじゃん。笑
    で、僕は意図をくんで、そいつらをやっつけるっていう。

今村  笑。彼氏ですね。相当、好きですよ。
    私は2人には、不思議な信頼があるなって思いました。
    『ねぇ、タクシー』の時も、じゃれてましたよね。

    普段は、2人で会ったりするんですか?

松江  会わないよ。気持ち悪いじゃん。
    なんで会うの?分からない。笑

今村  例えばご飯に行ったりとか?

松江  行かない、行かない。誰とも。

今村  仕事の後に行くことはあるけれど?

松江  そう。
    だって僕、人とあまり飲んだりしないんですよ。

今村  疲れちゃうんですかね?
    仕事柄、色々な人に会うじゃないですか?

松江  そうなんですかね。
    なんか、男の人と行くのが好きじゃない。

今村  笑 女性ならいいんですか?

松江  女性ならいいですよ!女性とは飲みたいけど・・

今村  前野さんとは?

松江  ないない、ない!
    だって前野さん、男じゃん!笑

今村  なんか飲むとかじゃなくても、
    2人で、ちょこちょこ遊んでそう。

松江  ないない、ない!

    1年に1回とか、そんな感じですよ。
    本当に大事な用件だけ。『ねぇ、タクシー』の時とか。

    前野さんから「会いませんか?」って言われる時は
    何か、あるなって。

今村  ライブを観に行った時は、話をされますか?

松江  他のミュージシャンの方もいるし、話さないです。
    お疲れ様って握手して別れるくらい。
    握手はします、終わる度に。

    そこでいいんだよね。
    前野さんとはライブでいいんです。

    ライブを見て、良いか悪いかで。

    歌が良ければそれでいい。

今村  松江さんは、ドキュメンタリーや何かを撮る時、
    何を1番最初に決めるんですか?

    その「人」を撮りたいかですか?

松江  そう。人、人!

今村  その「人」を撮るんだったら、
    何が面白いかな?って。

松江  そう。あまりテーマがどうとかとは・・

今村  実際に会って、その「人」を撮りたいって思うんですか?
    何かを見て、興味が湧くこともありますか?

松江  いや。会わないと分からない。
    何かを見た時点で、誰かが入ってるから。

今村  そうですね。
    誰かの視点や演出が入ってますもんね。

    一貫してるんですね。
    「人」が大事ってことに関して。

松江  人が大事!
    ただ自分から撮りたいか、プロデューサーの提案か、
    そこに差はない。

今村  撮ることが決まって、初めて会う人は、
    撮影前に会いますか?

松江  もちろん、会います。
    ちゃんと会って、話を聞きたいし。

    ただ撮影前に、四六時中カメラをまわしたりはないです。
    前野さんに関しても、普段撮ったりはしないですもん。
    ライブしか撮らない。

    『ねぇ、タクシー』の撮影の時も、
    「あ、こんな部屋に住んでるんだ」って。笑

今村  笑。あの部屋ですね。

    今年は、何本か映画も計画してるんですよね?


松江  そうですね。
    ただ、何本かやろうとしても、
    企画が全部通るとは限らなくて。

    1年に1本発表できるよう、できるだけ頑張ってるのは、
    単純に、わくわくするモチベーションがないと、
    自分自身がつまらないからで。

    常に、自分がわくわくするもの、というか。

    僕は性格的にもサラリーマン無理だと思ってて。
    決められたことをやって、お金をもらうのは。


今村  今まで、経験ないですか?


松江  ないです。
    バイトしてた時だけ。

    だから、バイトしてた時とか、戻りたくないもん。

    だって、楽なんだもん。
    考えなくていいっていうか。

    あと、僕は仕事断らないって決めてるんですよ。
    基本的に、どんな仕事でも。映画に関わることは。

    なんていうのかな、分かるんですよ自分がやってるから。
    もし僕が断ったら大変だろうなって。
    知ってるから断らない。

    アイドルとかタレントとかの仕事じゃないので。

    ただ最近、これは失礼じゃないか、
    と思える学生とかのは、断るようにしてますけど。
    あと、安易だなこの人、っていうのが透けると断りますね。
    プロの人はそういうことないですけど。

    映画観てないのが分かったりとか、
    僕のことを知らないのがあからさまだと、断ります。

    あと、twitterで言ってくる時は無視します。

    まず、礼儀としておかしいかなと。

    だって、今時ちょっと調べれば、
    僕の連絡先とか分かるじゃないですか?


今村  はい、そうですね。


松江  仕事の努力みたいなものが、足りないから。

    その人には返しません。
    最初がそうだと、その先も、ね。


今村  仕事の礼儀の話、
    すごく、よく分かります。

    漫画は昔から読んでましたか?

松江  はい、僕はすごい読んでましたよ。

今村  少年漫画ですか?

松江  ちょうど、ジャンプ全盛期かな。
    『ドラゴンボール』、『北斗の拳』、『スラムダンク』、
    『シティーハンター』、漫画太郎とか。

今村  すごいラインナップ!全盛期ですね。
    松江さんの時代って、
    1番最後のページに、インチキっぽい広告ってありました?

松江  あった、あった。笑 今もあるんじゃない?

今村  私、なんかあの感じ、
    松江さんとつながります。笑

松江  え!なんで?笑

今村  いや、松江さん好きそうだなって。笑

    あれ面白いですよね、背が高くなるスニーカーとか。
    私ちょっとインチキっぽい広告とかけっこう好きで。
    切羽詰まってても、笑っちゃう感じが。笑

松江  色々あやしい広告ね。あった、あった。
    あれは、今ないね。

今村  そうなんですか。ちょっと残念です。
    私の時のジャンプは、ちょっと面白くなくなりかけてて・・
    今はどうなんでしょう?でも、『ワンピース』とかありますね。

松江  『ワンピース』も、今はちょっと古い感じじゃないですか。
    僕は『スラムダンク』が終わるまで読んでたって感じかな。
    中学で。でその後は、ヤンジャンとか、サンデーとか。

今村  私、バンチが好きでした。知ってます?
    なくなっちゃいましたけど。

松江  あ、コミックバンチ?
    最近じゃん?笑

今村  大学の時に買ってて。
    『蒼天の拳』とか、『エンジェル・ハート』とか。

松江  原哲夫と北条司。笑 
    あれはもう、昔のリメイクだなって。

今村  はい。わかっているんですけどね、なんか好きで・・
    松江さん、リボンとかは読んでました?

松江  リボンは、妹が読んでたから。

今村  やっぱり!
    少女漫画、読んでるんじゃないかなって思いました!

    リボン、似合います。笑

松江  笑 『お父さんは心配性』とか。

今村  !岡田あ~みん!私もめっちゃ好きです。

松江  あと『星の瞳のシルエット』とか。

今村  ・・柊あおい?

松江  そう、そう!

今村  爆笑 分かっちゃいましたね。
    松江さんの中のロマンチックな部分が、
    少女漫画っぽいというか・・

松江  いやぁ、そうですね。笑

今村  そこが、女性讃歌にもつながる気がします。

    松江さんの作品を見るお客さんは、男の人が多いんですか?

松江  うーん、やっぱり、男の方が多いんじゃない?
    映画を観る人が、相対的に男の人の方が多いでしょ。
    でも女性も、けっこう見てくれてますけどね。


今村  はい。そんな気がします。
    でも、もっと女性にも観てほしいなって思います。

    けっこう女性が一人で観に来てて、
    しんみりしてるのをみて、いいなって思って。笑


松江  はい。色々な人に観てほしいです。
    良いものを、見つけようとしてる人とかにも、
    観てほしいですね。

    映画に限らず、本物というか、
    良いものを探してる人が、来てくれたらいいなって。

    なんかわかるじゃないですか?
    お客さん見て、この人そういう人だなーとか。


今村  はい。わかりますね。
    そんな松江さんの、作品を観たい方は、
    今は「フラッシュバックメモリーズ3D」がやってますね!


松江  はい。2月23日~28日(日)まで。シネマート新宿です。
    でかいですよ!300席とか。

今村  いいですね!伊勢丹の近くですよね。
    私、お正月に「寅さん」観に行きました。
    同じスクリーンですよね。わ、大きいです。

松江  はい。28日までです。舞台挨拶もやります。

今村  行きます!笑 
    私、4D上映も見たいんですよね。

松江  4D上映は渋谷のWWWで、
    4月にありますので、そちらも是非。

今村  色々上映されて、嬉しいですね。
    1年くらい、経ちますもんね。

松江  はい。有難いです。
    随分長くやってくれてて。

今村  大人から子供まで、海外の方も、
    みんなが、観やすい映画でもありますよね。

松江  そうですね。28日までやっているので。
    『フラッシュバックメモリーズ3D』是非。

今村  わたしも、おすすめです!

つづく

PROFILE 松江哲明 ドキュメンタリー監督

1977年、東京都生まれ。 1999年、日本映画学校(現・日本映画大学)卒業制作として監督した『あん にょんキムチ』が、山形国際ドキュメンタリー映画祭「アジア千波万波特別賞」、「NETPAC特別賞」、平成12年度「文化庁優秀映画賞」などを受賞。その後、『カレーライスの女たち』『童貞。をプロ デュース』など刺激的な作品をコンスタントに発表。 2009年、女優・林由美香を追った『あんにょん由美香』で第64回毎日映画コンクール「ド キュメンタリー賞」、シンガーソングライター前野健太が吉祥寺を歌い歩く74分ワンシーンワンカットの『ライブテープ』で第22回東京国際映画祭「日本映 画・ある視点部門」作品賞、第10 回ニッポン・コネクション「ニッポンデジタルアワード」を受賞。著書に『童貞。をプロファイル』『セルフ・ドキュメンタリー―映画監督・松江哲明ができる まで』など。2012年、「第25回東京国際映画祭」で記憶障害に陥ったミュージシャンGOMAを追ったドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ 3D』がコンペティション部門観客賞を受賞。映画専門誌の2013年度日本映画ランキングにおいて、キネマ旬報10位、映画芸 術8位を記録し、洋邦混在の映画秘宝ランキングでも17位を記録する等、名実ともに2013年度を代表する作品の一つと呼べる。 シネマート新宿にて (2/23〜28日)凱旋上映中。http://flashbackmemories.jp/

PROFILE 今村沙緒里 俳優 インタビュアー
オフィシャルウェブサイト http://saorix.jimdo.com/

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