好きなことをずっと続けている、
音楽家の内橋さん。
続けてきたら「今」になった。
好きなことを続けることと、
好きなことで、お金を稼ぐこと。
それは、一緒に考えてもいいし、
別々に考えてもいい気もしました。
自分の好きなことを、続けること。
人それぞれ、
いろいろな人生を生きてきて、
その人生の分だけ、
いろいろな感じ方がある気がします。
内橋さんのお話を聞いて、
そのままでいいんだ、って思いました。
みんな、違って、みんな、いい。
自分の好きなことってなんだろう?
第三回、最終回は、
自分の、人生を生きる、みたいなお話です。
(好きなことを見つけられると、人生がちょっと、楽しく、彩られる気がします。)
第三回 それぞれが独立して"いいもの"をつくっているか? 今村 音楽を、やめようかなって思ったことはありますか? 内橋 なかった。 今村 それがすごいなって思います。 好きなことを始めるときって、 最初はみんな、好きな気持ちが大きいと思うんです。 でもやっていく中で、嫌いになりそうになったり、 ストップしたり、色々な事情でやめていく人もいますよね。 内橋 僕はなにもやらされてることがないから。 自分でやってるだけだから。 きっとやり方が間違ってるんじゃないかな。 今村 たしかに、自分でやってるっていうのは、 強いかもしれませんね。 自分でジャッジしてるってことですもんね。 内橋 そう。 たとえば、メジャーの人は、契約とかもあるでしょ。 何年に、何枚、出さなきゃいけないとか。何があっても。 それが契約だから。 つくりたいものがない時でも、 つくり出さなきゃいけないのは、大変だよ。 もちろん、それで『いいもの』がうまれる時もある。 でも、やっぱり大変だと思う。しんどい。 なんでも、自分のやりたいことを続けられるか?ってことは、 "その人次第"だと思う。 それは上手いから続けられるわけではないし、 下手だから続けられないわけでもない。 下手でも、すごい好きで楽しかったら、続けちゃうでしょ。 そこにしか、自分の何かを持っていけない人だったら、 続けるだろうし。 今村 はい。 続けることって大変だけど、大切ですよね。 続けることでみえてくるものもあるのかなって思います。 内橋 うん。 上手で才能ある人はいっぱいいたけど、みんな辞めちゃった。 大学卒業して就職するって、すぱっと。 もったいないなって思ったよ。 僕があんなに上手に弾けたら、絶対やめないのに。 でも、そういうことじゃないんだよ。 音楽をやるってことも、 音楽して生活していくことが、いいことでもないと僕は思う。 好きだったら、ずっとやればいいし、 働きながら、音楽好きでずっとやってる人もいる。 それはそれで、素晴らしいことだと思うよ。 僕は今、音楽で生計を立ててるけど、 それはもう本当にラッキーだとしか言えない。 だって、好きなことやってきて、食えてるんだから。 こんな、しあわせなことはないなって思う。 でも、基本は食べることとは別のところにあるから。 続ける、続けないっていうのは。 仕事がないから音楽を辞めちゃったっていう人は、 "音楽を仕事にしたかった人"。 "音楽をやることが目的"なわけじゃなくて、 "音楽で食べることが目的"、そもそもが違う。 でも世間的には、音楽で食べていけなかったら、 成功してないって思われちゃう状況だからね。 その狭間で、みんな悩んだりするんだよね、きっと。 「いつまでも仕事もなしにそんなこと続けて!」 って言われちゃったりね。 僕だって、ずっと親父に言われ続けてきたからね。 今村 内橋さんでも言われたんですか? 内橋 言われたよ!笑 大学卒業後の、就職する、しないのタイミングで。 「なんで就職しないの?」って。 まぁ、親としてはきっと、心配してたんだよね。 でも僕は、考えて、自分で選択したんだから。 30くらいまで言われてたかな。それからは言わない。 今村 ライブに来てくれたりします? 内橋 うん。ちょこちょこ来てるよ。 今村 いいですね。 内橋 でも、最期の方だよ。亡くなる前。 親父は若くて63、64歳で亡くなったから。 僕が30代後半のころかな。 今村 亡くなってしまうの早かったんですね。 男の人にとって・・ お父さんって大きくないですか?いろいろな意味で。 内橋 僕にとっては、 はっきり言ってあんまり大きくなかったな。 反面教師な感じがあって。 今村 そういう意味でも、大きくないですか? 内橋 うーん、うちの親父はね、普通のサラリーマンだった。 サラリーマンとして、どこまで上にいけるのか? っていう社会で働いてて。そこで、ずっとやってきた人。 僕が興味のない世界で、そこで悩んで悩んで、苦しんだ。 それでストレスが溜まって、病気になって。 あれを見て、僕は親父みたいになりたくないなって。 今村 お父さん、何が好きだったんでしょうね? 内橋 何が好きだったんだろう。 今村 野球とか? 内橋 うん、野球は好きだった。 一緒に観に行ったりしてた。西宮球場とか。 僕の名前、和久って"稲尾和久"からつけられたから。 すごいピッチャーだったんだよ。 今村 スター選手から名付けられたんですね! いい名前じゃないですか。 昔は映画スターから名付けられたり、よく聞きますよね。 内橋 今でもそうでしょ。笑 今村 失礼しました。笑 内橋 笑 和久って同じ名前のやつをみつけると、 「お前の親父、稲尾のファンだろ?」って聞くと絶対そうだった。 今村 そうなんですね。 平和の"和"に永久の"久"、いい名前だと思います。 お母さんは、どんな感じの方ですか? 内橋 お袋は、ほわんとしてたかな。明るい。 今村 内橋さんはお母さんに似てるんですかね。 別に、ほわんとしてるってわけじゃないですよ。笑 内橋 笑 はい。 今村 明るいというか、なんでも受け入れる感じがして。 大丈夫でしょ、って。 内橋 うん。ポジティブかもね。 今村 はい。そうです! 明るいってけっこう大事じゃないですか。 特に、家の中でお母さんが明るいことって。 内橋 うん。2人ともポジティブだったかな。 親父は疲れて帰ってきてたけどね。 今村 お母さんはライブに来られますか? 内橋 お袋は、よく来るよ。 最近は年もあるから頻繁ではないけど。昔からよくね。 今村 自分がサラリーマンになるっていうことは、 違うなって思うけれど、 「お父さんがやってたことを分かるな」、 っていう気持ちはあります? 内橋 うん。 サラリーマンにもいろいろな人がいて、 楽しんでる人もいる。それは、いいことだと思う。 でも、うちの親父はそうじゃなかったと思う。 会社をなんとかして、大きくしたいとか、 自分がどれだけ貢献できるか、それが全てだったんだと思う。 そのために、一生懸命、一生懸命働いてたから。 今村 情熱がありますよね? 内橋 うん、情熱はすごいあった。 やってみたいことをトライしたり、がんばってた。 繊維関係の仕事でしょっちゅうアフリカに行ってた。 アフリカに行って生地を卸してた。 今村 その時代に、アフリカで商売って・・すごいですよね? 内橋 うん。しょちゅうアフリカに出張に行ってたよ。 ケニアとか。麻を作ってた。 今村 すごい!お父さん、すごいじゃないですか。 内橋 うん。そういう意味では頑張り屋だったのかな。 今村 頑張り屋さんですよ! 日本のちょっと前の時代って、企業戦士というか、 とにかく働くって時代があったじゃないですか。 内橋 うん。それが良いとされていた時代だね。 今村 はい。 お父さんは、必死に闘っていたんじゃないですかね。 歳を重ねたり、上にいくほど、 色々なしがらみや派閥、ポジション争いもあったり。 大変だったと思います。 内橋 うん。 そこに目標をおくのが、あんまりよくない気がするんだよね。 一生懸命働いて、そこのポジションにいけないって分かった時に すごくショックで立ち直れなくなっちゃったりする人もいる。 目標ってなんなんだろうね?達成させて終わるもの? 今村 分かります。 ただ、一方で、目標を立てることで、 がんばるひとつの方向性をつくれるのかなって思ったりもします。 たとえ、その目標にたどり着けなくても、 その過程で得られるものや同じ方向を向いている人と出逢えたり。 逆もありますが。苦笑 悩んだり、ピンチの時、 わたしは同じ思いをもった人に助けられたりするので。 でも、その"人"と出逢えないと・・かなり苦しいと思います。 内橋さんは、がんばらなきゃいけない時は、 どうやってモチベーションを上げるんですか? 内橋 学校のテストの時は一夜漬け。 今村 さかのぼりますね!笑 内橋 はい。笑 詰め込んでがんばって、テスト終わったら全部忘れる。 今村 分かります。わたしも一緒です。笑 内橋 けっこう良い点とってたよ。 今村 内橋さん、優秀だったんですね。 内橋 高校はダメだったけどね。 だいたい遅刻して、3時間目くらいからかな。 今村 え!お母さんは、なにも言わないんですか? 内橋 言わなかったね。笑 今村 お母さん、すごいですね。 内橋 自転車乗って、サンダル履いて行ってた。 今村 え!爆笑 おばさんじゃないですか! 服装検査で怒られますよね? 内橋 服装検査とか関係ないし、 色つきのシャツとか着てたから。 今村 !色つきのシャツって。笑 なんか、アイドルみたいですね。 高校は、卒業できたんですか? 内橋 しましたよ!笑 進学校でしたから、一応。 遅刻、早退は多かったけど、テストの点数は良かったから。 今村 わ、先生からするとちょっと嫌な感じの生徒ですね。笑 内橋 はい。笑 今村 わたしの時代でも、高校から携帯電話があって・・ 今は、学校は大変ですよね、きっと。 内橋 そうだね。今は授業中みんなやってるだろうしね。 まぁ、でも僕が今高校生だったら、絶対使ってるからね。 今村 わたしも絶対使ってます!笑 でも、すごい縛られたり、時間をとられる気がして。 あの青春時代は、面と向かって、 いろいろ過ごしてほしいなと思います。笑 内橋 何歳だよ。 今村 おばあさんみたいって言われます。笑 内橋 笑 人と繋がるためのものが、すべてそこに入ってるからね。 携帯やパソコンが、人と繋がる媒体になっていて、 直接会うよりも多くなってる。 僕もそれはあんまり良くないと思う。 今村 はい。もちろん良い部分もありますが。 内橋 便利だってことを分かった上で、使ってるならいいよね。 今村 はい。 携帯、iphoneつながりで・・ itunes、携帯で買う音楽については、どう思いますか? CDの音源のクオリティとは、違うんですよね? 内橋 うん。違う。 MP3だから圧縮されてる。音がもっと狭い。 配信用にデータを軽くするために失われてる音もある。 そのかわり、便利で簡単に送れる。 だからこれだけ普及してるんだよ。 残念な話ではあるけどね。 今村 配信がメインにもなってきてますよね。 たしかに、とても便利だと思います。 CDをつくらなくなってる人もいますよね。 内橋さんは作ってますよね? 内橋 うん。作ってる。 ただ、CDはほとんど名刺代わりみたいなものかな。 CDもデータだからね。 でも配信するなら、配信の時に、 もっとクオリティが高い状態のものを届けたい。 もっと良い音、良い音楽を届けたい。 今村 内橋さんのCDって、ジャケットもかわいいですよね。 音楽もいろいろな方とのセッションで、楽しいです。 わたし、CDが好きで・・ ちょっと変わってるかもしれませんが。 ジャケットをみて、久しぶりにきこう!って思うと、 なんかその時の思い出とか、記憶にもつながったりして。 あと、形がないとよくわからなくて。笑 内橋 笑 またおばあさんみたいなこと言ってるね。 今村 ・・はい。笑 でも、CDつくり続けてください! 内橋 はい。作ります。笑 今村 作曲してる時と、ライブで即興の音楽を演奏している時、 どんなことをしてる時が、1番楽しいですか? 内橋 全部楽しいよ。笑 全然違うものだからね。 ただ、やり方としては全部同じ。 ライブの場合は、やり直しがきかない。 家での作業は、やり直しがきく。そこが違う。 自分のインスピレーションから生まれたものではあるけど、 作曲はそれを試しながら、選択していく。緻密な作業。 ライブは一発勝負だから、その緊張感が僕は好き。 意外な事もいっぱい起こるし、そうなった時にワクワクする。 『言葉と音の実験室』のアリス、初日はつっこんだじゃない? 僕はすごく楽しかった。電池なくなったりトラブルもあったけど。 「今、そこでできることを、ぱっと考えて出す」 対応できるか、対応できる相手か、問われる。 「今までと違う発想が出てくるか?」 相手とコミュニケーションをとりながら、 自分でも意外なものが出てきたりするから、楽しい。瞬発力。 今村 はい。 瞬間、瞬間で変わっていきますよね。 わたしも楽しいです。 音と言葉ってジャンルがちょっと違うじゃないですか。 音と音でやってる時と、違います?どうですか? 内橋 そうだね。ちょっと違う。 でも信頼関係があれば大丈夫。面白い。 今村 たしかにそうですね。 お互い「大丈夫っしょ!」みたいな感覚ありますね。笑 内橋 そう。信頼関係。お互いを受け入れる。 あと思うのは、 結局、全部音楽なんじゃないかなとも思う。 今村 あ、分かります! 内橋 そう。 言葉にも、抑揚があって、音だし、 そこにはやっぱりメロディーがあると思う。 トーンや大きさも含めてね。音色がある。 言葉をしゃべる人によって、カラーやイメージがあるから、 それは音楽になりうるなって。 今村 はい、わたしもそう思います! 音楽も、発する言葉も、音色みたいだなって思います。 あと同じ言葉でも、音楽でも、歌詞でも、 発する人によって、全然印象が違うものになりますよね。 内橋 そう。 だから『言葉と音の実験室』も、 どちらもが反対側にいこうとするけど、 ある意味ひとつの方向にいく。言葉から、音から。 一見、分かりにくいんだけど、 感じる人は感じると思う。 面白いよね。考えて聴くっていうよりも、 感覚で聴くと、更に面白いんだろうね。 今村 そうですね。 わたし自身も面白いです。 毎回テーマは変わりますけど、 いろいろチャレンジしていきたいなって思います。 あと、内橋さんには映画音楽もやってほしいです。 内橋 うん。 僕は、映画がすごく好きだけど、 いま映画音楽をちゃんとつくってるのって少ないと思う。 やっぱり劇伴(劇の伴奏)が多いよね。 長いことやってないけど。 本当に良い映画は音がなくても成立してるものが多い。 その上で、音を入れるってことがどういうことなのか? よりイメージを拡大できるか?試されるよね。 それぞれが独立して"いいもの"をつくっているか? 今村 はい。 子供の頃に観た映画って、エンタメ系も多いですけど、 音楽も覚えてるんですよね。 VHSのジャケットやポスターも一緒に。 内橋 良い映画って、全部いいんだよね、結局。 今村 はい。全部いいですよね。 総合劇術ですよね。 内橋 うん。音楽でいうと、映画を知らなくても、 その音楽だけでもいいなって思ってもらえることね。 今村 そうですね。それが理想ですね。 内橋 そういう現場、やりたいね。 今村 はい。 いつか、一緒にできたらいいですね。 内橋 やりましょう! 今村 ぜひ! 内橋さんは色々な方とお仕事されてますけど、 はじめての方からオファーがきた場合は、どうしますか? 内橋 音楽家に関しては、やったことない人は一回やってみる。 やってみないと分からないし。断る理由がないから。 時間があればね。どんなジャンルもそうだね。 相手が、自分に何を求めているのか? 自分にしかできないことは何か? すごく興味があるよ。 今村 じゃあ、内橋さんから、仕事を誘うことは? 内橋 あるよ。それは本当にいいなって思う時は、 自分から連絡をとるよ。 その人の音楽の中に、自分が入りたいって思う。 今村 国や年齢、なにも関係なく? 内橋 関係ない。 一緒にものを作りたいって思うか? 特に僕は、うたが好きだから、うたの人が多いかな。 今村 UAさんと内橋さんの組み合わせ、すごくいいですよね! ライブでの『情熱』とか、自由感がすごくて、わくわくします。 あと『Breathe』(CDアルバム)が大好きで、よく聴いてます! なんか自然の中にいる感覚というか、 大地が広がっていくんです。 内橋 ありがとう。嬉しいです。笑 今村 はい。女性の歌手が多いですよね。みなさん素敵な方です。 男性の歌手っていますか? 内橋 いるよ。細野晴臣さんとか。 細野さんは、昔から大好きでね。 巡り合わせで『僕らの音楽』の番組で曲を一緒にやって、 それからの付き合いだけど、すっごく嬉しかった。 今村 細野さん、いいですよね。 映画の『メゾン・ド・ヒミコ』の、 バスのシーンの音楽がすごく好きです。 ちょっと悲しいシーンですけれど、音楽は軽やかで、 とても素敵なシーンで。大好きです。 細野さんの音楽は劇伴じゃないですよね。 内橋 うん。劇伴じゃない。 音楽だけ聴いても、いいよね。 ちゃんと音楽が独立してる。 今村 はい。 あと、七尾旅人さんも一緒にやってますよね? 内橋 旅人ね。旅人はね、音楽聴いてすぐ連絡したの。 沖縄に行った時に、店で旅人のCDが掛かってて。 「これ誰?」って聞いて。 衝撃を受けて、すぐ連絡先調べて連絡した。 彼がまだ、セッションとか全くやってない頃で。 今は、もうやりまくってるけどね。笑 今村 じゃあ、内橋さんがきっかけかもしれませんね。笑 初めて一緒にライブをした時はどうでしたか? 内橋 幸せな時間だったね。 一緒に音楽の中にいれるってことが、嬉しかった。 楽しいし、幸せな気持ちになる。 今村 自分から出逢っていったんですね。 いい出逢いって大事ですよね。 仕事もプライベートも。 面白い仕事をやると、それを見てくれた新しい方が、 面白い仕事をオファーしてくれたり。 そういう流れが、一番良いなって思うんですよね。 良い仕事の連鎖。 内橋 うん。それが一番いいと思う。 今村 はい。 新しい出逢いもあって、 豊かな繋がりができていきますよね。 あと、新しい人や、仕事と、出逢えると、 前に自分が仕事した人や、面白い人も紹介しちゃったりして。 仕事の前後も繋がったりして。 わたしはけっこう、そういうことが好きです。 新しい仕事も、直感で決めますか? 内橋 うーん、あんまり来ないけどね。 今村 え!じゃあ、来てほしいですね。 勿体ないです! 内橋さんの音楽や、Daxophoneは、 すごく新しくて、面白いと思うので、 新しいジャンルの仕事とも出逢ってほしいなって思います。 内橋 うん、やりたいね。 今村 はい。 ジャンルを問わず、面白そうなものだったら、 やりたいってことですよね? 内橋 うん。トライしたい。 今村 演劇、ダンス、映画、ライブ・・ いろいろな音楽の仕事をされていますが、 どんな音楽をやりたいですか? 内橋 全部やりたいね。笑 今村 爆笑 はい。 内橋 いいものだったらね。 「これに音をつけたいな」って思うものだったら、 なんでもやりたい。 たとえばダンサーとやるのも、音楽的なんだよね。 動きに合った音を出す、ってことを僕はやらないから、 音は音、動きは動き、であって、「どう絡むか?」 両者がどこで接点をもってくるか?ということでしかない。 ただ単純に、動きに合わせて音を出すなら、 それは劇伴(劇の伴奏)でしかないし、 劇伴っていう発想自体があまり豊かじゃないと思う。 「このシーンにはこういう音楽」 っていう刷り込みみたいなものってあるけど、 人によって、"印象"って違うと思うから。 劇伴の世界って、実験しにくいんだと思う。 やっぱりオーソドックスなものが好かれるんだと思うよ。 シーンを盛り上げるための音楽っていう認識だから。 悲しいシーンは悲しい音で、ってね。 それは「答えがわかってる」ってことだと思う。 だから、そこにはあまりいきたくない。 人間の感情や動きって、 そんな単純なものじゃないと思う。 悲しい、楽しいだけじゃなくて、 本心を隠してたり、もっと、もっと複雑だと思う。 今村 すごくよく分かります! 内橋 うん。 「この感情は複雑なんだ」ってことを表現したいなら、 そこには"複雑ないろいろな音"を入れないと表現できない。 そうじゃないと、 見たことのあるものしか作れないと思う。 あと、何よりも、みてる人がそれを考えなきゃいけないと思う。 想像するってこと。考えなくてよくなっちゃう。 みてる人に、「あれ・・?」って思わせないと。 たぶん、僕のライブに来てくれるお客さんの大半は、 「何をやるか分からない」って思ってると思うよ。 はじめから期待してない。 今日はなにをやるんだろう?って。 今村 それは、わくわくしますよね。未知です。 今日はなにをやるんだろう?って。 内橋 行く前から、なにをやるか分かってるなら、 わざわざ行く必要ないんじゃないかなって。 音源とレコードを聴くのと、ほぼ一緒だよね。 ライブに行くってことが。 僕らがやってることも一緒だよね。 いわゆる"朗読に音楽をつける"っていうことは、 始めからやる気ないでしょ? それだけだと、つまらないから。 そうじゃないものをやりたいわけだよね。 今村 そうですね。 自分たちも、新しい発見をしながら、 広がっていきたいです。 内橋 そう。 新しい発見をしながら、演奏家同士でも、 自分が解放されて、相手も解放されて。 同じように、お客さんも解放されなきゃ。 そうじゃないと、しんどいと思う。 僕は好きに感じて、好きに思ってほしい。 今村 内橋さんにとって、"想像力"ってポイントですよね? 内橋 うん。 なんでもそうだけど、音楽でも、 やり過ぎちゃうと説明になっちゃう。それはいやだなって。 聴いてる人がどれだけ、いろいろなことをイメージして、 いろいろなことを考えて、想像できるかなって。 それが、いい音楽、いいライブだなって思う。 "自分に反芻すること"。 聴いてる人の経験に、訴えかけること。 そういう意味では、 お客さんはみんな違う経験をしてきてるんだから、 みんな違う反応、感じ方をしてもいいと思う。 そうさせないようなものはつまらないと思うし、 その人の、個人的な部分に働きかけてないんだと思う。 ふと考えたり、思い出したり、心にくるものは、 限定してないものだと思う。 隙間を与えてる。全部言い切らない。 今村 たしかに、内橋さん"隙間"がありますよね。 わたしも隙間とか、隙があるものがすきです。 内橋 隙間がないと、ものを想像する余裕がなくなっちゃう。 いろいろなモノが見えてくる、 いろいろなきこえ方がする、同じものなのに。 そういうものがいいなって思う。 今村 はい。すごくわかります。 これからも、わくわくする音楽、新しい音楽を楽しみにしてます。 内橋さん、ありがとうございました。 *お知らせ* 2015年3月7日(土) OPEN 19:00 START 19:30 『言葉と音の実験室Vol.4 –薬指の標本–』 @ポスターハリスギャラリー 予約2500円 当日3000円 ライブスケジュールは、内橋さんのHPへ! *おまけ* 内橋さんへのインタビュー、最終回です。 ちょっと(だいぶですね。笑)間があいてしまいました。 文字を起こしたり、構成は、最初に全三回分終わっていましたが、 内橋さんのお父さんについての話を聞いた時、何かが引っかかりました。 そして、昔クリッピングしていた、ある記事を思い出しました。 ただ、私の個人的な感覚かもしれない、と時間を置いたのですが、 時間が経っても変わらなかったので、笑 載せたいと思います。 親子って、愛情と憎しみとあって、複雑で、小さくて、大きくて。 きっと、お父さん、心配だったんじゃないかな。 今の内橋さんの音楽を聞いたらどう思うかな?なんて思いました。 朝日新聞『おやじの背中』田中泯さんの記事。 強烈な一文からはじまります。以下全文掲載します。 おやじの背中 ー事件現場で死教わったー 田中泯さん おやじの期待を圧倒的に裏切ってきたと思う。 僕が踊りをやることを反対はしなかったけれど、 「男のやる仕事なのか」とずっと言っていた。 病院で聞いた最後の言葉も「男の仕事だな」だった。 「はい、男がやるべき仕事です」と本気で答えたけれど とても悲しかった。警視庁の刑事で、ほとんど家に帰って来なかった。 弟は「父ちゃん」と甘えていたけれど、僕は「父さん」としか 呼べなくて、 おやじが死ぬまで敬語でした。 「あの人」と言った方がいいかもしれない。 小学生の頃、何度か死体を見せられたことがあります。 近くの河原で自殺死体が見つかると、僕を引っ張って連れていき、 人垣の前に押し出して「見ろ」と言う。台風の後の水死体もあった。 仕事柄たくさんの死を見てきて、人の死を僕に教えたかったのだと思う。 怖かったけれど、これが人の体か、死んだ体なのかと、 僕は夢中で見てしまった。強く残っています。 退職後は、自宅の庭で1畳ほどの小さな畑をつくっていました。 両手で土をもみほぐす、その横顔を隣で見て 「この人は、こういうことが好きなんだなあ」と思った。 農家の次男坊。 田中というくらいだから根っからの百姓なんでしょう。 僕も踊りと農業をするため、85年に山梨に移りました。父を呼ぼうとも 思いましたが、直後に亡くなり、間に合わなかった。80歳でした。 こっちに来ていたら、もっと長生きしていたんじゃないかなと思う。 小学校卒で、警視まで昇進しました。表彰状をいっぱいもらっていた けれど、晩年には庭で、それらを燃やしていた。 「それ、賞状ですよね」と聞いたら、 「いらないんだよ」と。 黙って燃やしている横顔を覚えています。 賞状は額に入れず、丸めっぱなしだった。 肩書きなんてどうってことない、という人だったんだと思う。 こんな紙っぺら、とね。僕も同じ思いだったから、うれしかった。 おやじはまさに肩書も勲章も必要ない、 一人の人間として生きたかったんだろうと思います。 (聞き手・中村真理子) 朝日新聞2009年7月26日日曜日掲載 *ひとこと* 内橋和久さんへのインタビュー、今回もロングインタビューとなりました。 内橋さんは、素敵な仕事をたくさん重ねてきている方ですが、 音楽も、人間性も、とても柔軟な方で、ただ、その人が、そこにいます。 それはすごく大切なことですが、一番難しいことのような気もします。 文字を起こしてから時間は経ちましたが、文章はそのままなのに、 読む方の、私の感じ方は変わっていて、面白いなと思いました。 タイミングによって、受け取り方って変わりますね。不思議です。 ぶれない人の言葉に、ぶれっぱなしの私は、いろいろ学びます。 『今日のお相手』二人目のゲストを引き受けてくださった内橋さん、 そして、ここまで読んでくれたみなさん、ありがとうございました。 今村沙緒里
PROFILE 内橋和久 KAZUHISA UCHIHASHI
ギタリスト、コンポーザー。http://www.innocentrecord.com/
欧米で高い評価を得る即興バンド「アルタード・ステイツ」
(内橋:g、ナスノミツル:b、芳垣安洋:ds)のリーダー。
83年頃から即興を中心とした音楽に取り組み始め、国内外の
様々な音楽家と共演。劇団・維新派の 舞台音楽監督を25年
にわたり務めている。他にも宮本亜門「三文オペラ」「サロメ」
河原雅彦「時計仕掛けのオレンジ」の音楽監督も務める。
音楽家同士の交流、切磋琢磨を促す「場」を積極的に作り出し、
「フェスティヴァル・ビヨンド・イノセンス」(神戸、大阪)
も12年間継続。近年はUA、細野晴臣、 くるり、七尾旅人、
青葉市子などのポップミュージシャンとも積極的に交流する。
また、2002年から2007年までNPOビヨンド・イノセンスとして
大阪でオルタナティヴ・スペース Bridgeを運営。
ハンス・ライヒェル氏が発明した新楽器ダクソフォンの日本唯一
の演奏者。今年の6月に横浜でダクソフォンの日本初の展覧会を
開催。近年はインドネシアのバンドSENYAWAを始め、アジアの
ミュージシャンとのプロジェクトを積極的に進めている。
現在、ベルリン、東京を拠点に活躍している。
PROFILE 今村沙緒里 SAORI IMAMURA
俳優、インタビュアー。
オフィシャルウェブサイト http://saorix.jimdo.com/